d:matcha Kyoto magazine

和束町にて、お茶農家&カフェを営むd:matcha Kyotoのブログです

【お茶コラム】「夏目漱石」作品の中で、お茶について書かれた一節をまとめてみた。その秀逸な表現に感服

はじめに;

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/17/Natsume_Soseki_photo.jpg/200px-Natsume_Soseki_photo.jpg

(画像はWikipediaより)

 こんにちは、d:matcha Kyoto magazineのTakeshiです。今日の記事では、日本が世界に誇る明治の文豪「夏目漱石が残した作品の中で、「お茶」について書かれた文章を集めてみました。お茶は、日常の様々なシーンで登場するものですが、かの文豪にかかればお茶を表現する方法は様々。ぜひ、お気に入りの一節を見つけて頂ければ幸いです。

①「草枕」より、玉露を表す一節

https://www.shogakukan.co.jp/thumbnail/books/09408627

(表紙は小学館のサイトより拝借)草枕 | 小学館

なんといっても、その表現が秀逸なのは夏目漱石の「草枕」の一節です。この小説の主人公は画家ですが、とある老人の家に招かれ、玉露をいただくシーンです。

(略)

濃く甘く 、湯加減に出た 、重い露を 、舌の先へ一しずくずつ落して味って見るのは閑人適意の韻事である 。普通の人は茶を飲むものと心得ているが 、あれは間違だ 。舌頭へぽたりと載せて 、清いものが四方へ散れば咽喉へ下るべき液はほとんどない 。ただ馥郁たる匂が食道から胃のなかへ沁み渡るのみである 。歯を用いるは卑しい 。水はあまりに軽い 。玉露に至っては濃かなる事 、淡水の境を脱して 、顎を疲らすほどの硬さを知らず 。結構な飲料である 。眠られぬと訴うるものあらば 、眠らぬも 、茶を用いよと勧めたい 。

”普通の人は茶を飲むものと心得ているが 、あれは間違だ 。”

舌頭へぽたりと載せて 、清いものが四方へ散れば咽喉へ下るべき液はほとんどない 。ただ馥郁たる匂が食道から胃のなかへ沁み渡るのみである 。”

「馥郁(ふくいく)たる」という表現が、これほどまでにマッチするものは玉露以外にあり得ない。玉露の豊潤な香りを見事に表現した文章ですね。

d:matcha Kyoto オンラインショップ / 【d:ynamic】 Gyokuro / 京都宇治玉露

 我々の販売する玉露でも、しっかりとその「馥郁たるうまみ」は味わうことができますので、ぜひお試しください!

②「虞美人草」より、宇治のお茶が「冷えている」一節。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/518JyRUA6zL.jpg

 

(画像はAmazonより)

 虞美人草という小説のあらすじを超簡素にまとめると、美人でプライドの高いヒロインがいて、そのヒロインが親の決めた相手ではない男と結婚しようとする上に、男を比べて翻弄した結果に、最終的に男が改心してヒロインになびくことがなくなり、結果自決してしまうという悲しい話です。

 シーンは前半。この一節については、親子のギスギスした会話が続く中で、漱石自身が「脱離の安慰を読者に与うるの方便」と小説の中で語っています。

(略)

 母は鳴る鉄瓶を卸して、炭取を取り上げた。隙間なく渋の洩れた劈痕焼(ひびやき)に、二筋三筋藍を流す波を描いて、真白な桜を気ままに散らした、薩摩の急須の中には、緑りを細く綯(よ)り込んだ宇治の葉が、午(ひる)の湯に腐やけたまま、ひたひたに重なり合うて冷えている。
「御茶でも入れようかね」
「いいえ」と藤尾は疾(と)く抜け出した香のなお余りあるを、急須と同じ色の茶碗のなかに畳み込む。黄な流れの底を敲(たた)くほどは、さほどとも思えぬが、縁に近くようやく色を増して、濃き水は泡を面(おもて)に片寄せて動かずなる。

 これは、冷えたお茶をそのまま茶碗に入れて飲み干した、という表現なのでしょうか。冷めたお茶が、ギスギスした親子関係とあいまって、シーンの情感を見事に伝えています。

③「坊っちゃん」より、お茶を勝手に飲む宿の亭主が登場する一節

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51%2BCFgcda0L.jpg

(画像はAmazonより)

 「坊っちゃん」は、中学校で課題図書になっていることもあり、読んだことがある人も多いでしょう。主人公が教師として赴任した先の四国にて、校長を「狸」、教頭を「赤シャツ」などとあだ名をつけ、特に悪いやつである「赤シャツ」を懲らしめる活劇です。(また乱暴なあらすじですみません・・・)

 そんな主人公が授業を終えて、下宿に帰ってきて宿の亭主がお茶を出してほっとするところが・・まったくほっとしない、という何ともせわしないお茶のシーンがこちら。

(略)

 それからうちへ帰ってくると、宿の亭主がお茶を入れましょうと云ってやって来る。お茶を入れると云うからご馳走をするのかと思うと、おれの茶を遠慮なく入れて自分が飲むのだ。この様子では留守中も勝手にお茶を入れましょうを一人で履行しているかも知れない。亭主が云うには手前は書画骨董がすきで、とうとうこんな商買を内々で始めるようになりました。あなたもお見受け申すところ大分ご風流でいらっしゃるらしい。ちと道楽にお始めなすってはいかがですと、飛んでもない勧誘をやる。

(中略)

 おれはそんな呑気な隠居のやるような事は嫌いだと云ったら、亭主はへへへへと笑いながら、いえ始めから好きなものは、どなたもございませんが、いったんこの道にはいるとなかなか出られませんと一人で茶を注いで妙な手付をして飲んでいる。実はゆうべ茶を買ってくれと頼んでおいたのだが、こんな苦い濃い茶はいやだ。一杯飲むと胃に答えるような気がする。今度からもっと苦くないのを買ってくれと云ったら、かしこまりましたとまた一杯しぼって飲んだ。人の茶だと思って無暗に飲む奴だ。主人が引き下がってから、明日の下読をしてすぐ寝てしまった。

 なんともリラックスできないお茶のシーンですね・・・。確かに、人にお茶を入れるといっておきながら、自分も楽しんで飲むような人には入れてほしくないですね・・・。坊っちゃんのフラストレーションがたまっていく物語前半では、日常をとらえたさりげないシーンです。

 

 以上です!多くの作品を残した夏目漱石ですので、上記以外の作品にもお茶が登場するシーンがあるかと思います。ぜひほかにもありましたら、コメント欄などで教えていただけると幸いです!

 

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